愛と悲しみの横断歩道
こんな夢を見た……。
わたしはひとりの女の人になっていた。メガネをかけた、優しそうな感じのやせた女。鏡を見たわけでもないのに、なぜかそれがわかる。
ある場所に、早足で向かっているようだ。
近未来的な感じさえする、複雑にからみ合った複数の階段を上り下りし、人ごみを抜け、目的の地にたどり着く。
現実とはかなり異なるようだが、どうやら見覚えのある「新宿駅」のようだった。
そうだ、思い出した。ここで男の人と待ち合わせをするのだ。
数日前、わたしはあるお見合いパーティーに参加し、そこで一人の男と意気投合し、今日はその初めてのデート、というわけ。
かれはわたしより先にその場所に来ていた。笑顔で、手を振っていた。
「ごめんなさい、かなり待った?」
「いいや、ぼくも今来たところだよ」
白い歯を見せてまた笑う。
「……ありがとう、気遣ってくれて」
「じゃあ、行こうか」「ええ」
大きな噴水のある公園を抜け、横断歩道にさしかかる。
渡り終えたところで、それまで元気そうだったかれに異変が生じた。
急に倒れこんでしまったのだ!
「どうしたの? 大丈夫? しっかりして!」
あわてて、うずくまるかれの横にかがみこむわたし。
かれの苦悶の表情でとまったまま、どんどん蒼ざめていく……。
チアノーゼというのだろうか。どうしていいかわからず、思わずかれの体をゆすってしまっていた。
そういうときにそんなことをしては、かえって危険なのかもしれないが、気が動転していて冷静な判断力を失っていたのである。
そこへひとりの警官が現れた。
「どうしました?」
「ああ、おまわりさん、このひと急に具合が悪くなっちゃったみたいなの。どうしたらいいかしら?」
「なに、それは大変だ! ここで待っててください、救急車を呼んできます!」
そう言って、警官は、その場を走り去った。
わたしはほんの少し安心して、救急車の到来を待つことにした。
すると、かれの顔に少しずつ生気が立ち戻り、うつろだった目も元に戻ったようだった。
「よかった! 気がついたのね?」
わたしは安心して彼の手を取ろうとする。
しかし、かれはなぜかわたしをにらむように見ていた。その目には激しい憎悪の光が宿っていた。
「どうしたの?」
そう聞こうとしたら、かれはわたしの手を振り払い、乱暴に、女であるわたしの肩口をつきとばした。
信じられなかった。さっきまであんなに優しかったかれが、なんという変わりようだろう。
「なにするのよ!」
「うるさい! おれの友だちから聞いたんだ。オマエ他に男がいるらしいじゃねえか! くそ、清純ぶりやがって。よくもおれをだましたな!」
かれは、わけのわからないことを毒づき始める。
「なに言ってるの? いないわよそんなひと! どうしてあなたのお友だちがわたしのこと知ってるの? そのお友だちに直接会って、お話させてよ!」
「うるせえ! なにも知らないくせに、おれの友だちを悪く言うな!」
「そんなんじゃないけど……あなたはそのひとの言うことしか信じないのね」
「あたりまえだ! ……オメーみてーな女、めざわりだ、とっととおれの前から消えろよ!」
わたしは嘆息する。
「……そう。わかったわ。さよなら」
わたしはやむなく歩き出した。
涙がほほをつたわっては落ち、アスファルトに悲しいシミを残す。
ひと目もはばからず、わたしは声をあげて泣いた。(……完)
……だいぶ前に見た夢なんですけど、印象深く覚えていたので、ここに書きました。
それではみなさま、よいお年を!
わたしはひとりの女の人になっていた。メガネをかけた、優しそうな感じのやせた女。鏡を見たわけでもないのに、なぜかそれがわかる。
ある場所に、早足で向かっているようだ。
近未来的な感じさえする、複雑にからみ合った複数の階段を上り下りし、人ごみを抜け、目的の地にたどり着く。
現実とはかなり異なるようだが、どうやら見覚えのある「新宿駅」のようだった。
そうだ、思い出した。ここで男の人と待ち合わせをするのだ。
数日前、わたしはあるお見合いパーティーに参加し、そこで一人の男と意気投合し、今日はその初めてのデート、というわけ。
かれはわたしより先にその場所に来ていた。笑顔で、手を振っていた。
「ごめんなさい、かなり待った?」
「いいや、ぼくも今来たところだよ」
白い歯を見せてまた笑う。
「……ありがとう、気遣ってくれて」
「じゃあ、行こうか」「ええ」
大きな噴水のある公園を抜け、横断歩道にさしかかる。
渡り終えたところで、それまで元気そうだったかれに異変が生じた。
急に倒れこんでしまったのだ!
「どうしたの? 大丈夫? しっかりして!」
あわてて、うずくまるかれの横にかがみこむわたし。
かれの苦悶の表情でとまったまま、どんどん蒼ざめていく……。
チアノーゼというのだろうか。どうしていいかわからず、思わずかれの体をゆすってしまっていた。
そういうときにそんなことをしては、かえって危険なのかもしれないが、気が動転していて冷静な判断力を失っていたのである。
そこへひとりの警官が現れた。
「どうしました?」
「ああ、おまわりさん、このひと急に具合が悪くなっちゃったみたいなの。どうしたらいいかしら?」
「なに、それは大変だ! ここで待っててください、救急車を呼んできます!」
そう言って、警官は、その場を走り去った。
わたしはほんの少し安心して、救急車の到来を待つことにした。
すると、かれの顔に少しずつ生気が立ち戻り、うつろだった目も元に戻ったようだった。
「よかった! 気がついたのね?」
わたしは安心して彼の手を取ろうとする。
しかし、かれはなぜかわたしをにらむように見ていた。その目には激しい憎悪の光が宿っていた。
「どうしたの?」
そう聞こうとしたら、かれはわたしの手を振り払い、乱暴に、女であるわたしの肩口をつきとばした。
信じられなかった。さっきまであんなに優しかったかれが、なんという変わりようだろう。
「なにするのよ!」
「うるさい! おれの友だちから聞いたんだ。オマエ他に男がいるらしいじゃねえか! くそ、清純ぶりやがって。よくもおれをだましたな!」
かれは、わけのわからないことを毒づき始める。
「なに言ってるの? いないわよそんなひと! どうしてあなたのお友だちがわたしのこと知ってるの? そのお友だちに直接会って、お話させてよ!」
「うるせえ! なにも知らないくせに、おれの友だちを悪く言うな!」
「そんなんじゃないけど……あなたはそのひとの言うことしか信じないのね」
「あたりまえだ! ……オメーみてーな女、めざわりだ、とっととおれの前から消えろよ!」
わたしは嘆息する。
「……そう。わかったわ。さよなら」
わたしはやむなく歩き出した。
涙がほほをつたわっては落ち、アスファルトに悲しいシミを残す。
ひと目もはばからず、わたしは声をあげて泣いた。(……完)
……だいぶ前に見た夢なんですけど、印象深く覚えていたので、ここに書きました。
それではみなさま、よいお年を!
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