片道エレベーター
その日。私は家にいた。午後6時か7時ごろだったか。
友人PとQ(いずれもむろん仮名)が来訪する。
彼ら二人はその当時、宅配便のバイトをしていた。そして、その配達区域が私の自宅周辺だった、ということである。
Qがメインなんだが、Pはその補佐役ということであった。
このPという男、われわれ3人の中では力関係でリーダー役である。昔は多少、ヤンチャしていた。
それで、私はそのときたまたま無職だったので、彼らの仕事を、微力ながら手伝うことにした。
そして、私の自宅から歩いていける距離くらいの、とある高層アパートに、三人と荷物をのせた車はたどり着く。
「おまえはここで留守番しててくれ」
と、Qは私にそう告げて、荷物と伝票を抱えて、その高層アパートとは違う建物に走っていった。
いっぽうPは、Qと同じように、小脇に抱えた荷物を持って、やはり走っていく。その(問題の)高層アパートに。
「あ、ここは、たしか……!」
私の脳裏にかれに伝えるべきことが浮かんだのだが、時すでに遅しで、かれがそそくさと、エレベーターに乗り込むのが遠目に見えた。
しばらくしてQが帰ってきた。かれは運転席に乗り込むとタバコに火をつけて、伝票チェックに取りかかる。
私をふりむきながら、
「あれ? Pは?」
「まだ来てないよ」
「ふーん」
会話を交わしてまたしばらくたって、Pが伝票だけ持って、走ってきて帰り着いた。
心なしか顔色が青い。
そして、この場所近辺に住んでいる私に、怒ったように、聞いてきた。
「おい、ここ、どーなってんだよ?」
「なんかあったか?」
「なんかあったか、って……あったよ!」
かれの話によれば、上の方の階の一室(その建物はたしか11階建てだったと思う)に荷物を届けに行った。
家人がいたようで、無事に一仕事終え、さて帰り道。
行きは何もなかったのだが、下りのエレベーターに乗り込んだかれに不可解な出来事が降りかかる。
ついさっきまではなんともなかったのに、頭上の蛍光灯が、不意に明滅しだしのだ。
それだけならまだ、蛍光灯の寿命とも思えるだろう。
どこからともなく、少女らしい、すすり泣くような声がフェードインしてきて、しかもだんだん大きくなってきたというのである!
さすがのかれも相当ビビったが、下に着くまでイカンともできなかったということだった。
「いや、実は、さ、……」
私は彼に話し始める。
聞いた話だが、この日の一ヶ月くらい前だったか、どこか遠くから来た一人の女子高生が、このエレベーターを使ってであろう、高層階から飛び降り自殺をしたらしいのである。
そういえばここをたまたま通った時に、花束が供えてあったのを私も思い出した。
「おまえ、どーしてそういう大事なことは、前もって言わねーんだよ!」
「いや、言おうと思ったんだけど、おまえがとっとと行っちまったからさ」
Pは、前述したとおり、昔やんちゃしていただけあって、かなりイケイケな性格である。ケンカもヒイキ目なしに見て、結構強い(強かった)と思う。しかも心霊現象など、そういったことはいっさい信じない主義だった。
しかしこの時を境に、かれの人生観も少し変わったように私には見受けられた。
最後に、三人で、誰が発案したわけでもないが、私たちはそこで亡くなった彼女に(自殺の動機はどうあれ)黙祷を捧げることにした。
彼女は、肉体をなくしてしまったが、それでもなんとか地上に降りてくることができたのであろう、とのことを思っての黙祷だったかもしれない。
今思えば、私たちが半ば無意識にしたことは。
友人PとQ(いずれもむろん仮名)が来訪する。
彼ら二人はその当時、宅配便のバイトをしていた。そして、その配達区域が私の自宅周辺だった、ということである。
Qがメインなんだが、Pはその補佐役ということであった。
このPという男、われわれ3人の中では力関係でリーダー役である。昔は多少、ヤンチャしていた。
それで、私はそのときたまたま無職だったので、彼らの仕事を、微力ながら手伝うことにした。
そして、私の自宅から歩いていける距離くらいの、とある高層アパートに、三人と荷物をのせた車はたどり着く。
「おまえはここで留守番しててくれ」
と、Qは私にそう告げて、荷物と伝票を抱えて、その高層アパートとは違う建物に走っていった。
いっぽうPは、Qと同じように、小脇に抱えた荷物を持って、やはり走っていく。その(問題の)高層アパートに。
「あ、ここは、たしか……!」
私の脳裏にかれに伝えるべきことが浮かんだのだが、時すでに遅しで、かれがそそくさと、エレベーターに乗り込むのが遠目に見えた。
しばらくしてQが帰ってきた。かれは運転席に乗り込むとタバコに火をつけて、伝票チェックに取りかかる。
私をふりむきながら、
「あれ? Pは?」
「まだ来てないよ」
「ふーん」
会話を交わしてまたしばらくたって、Pが伝票だけ持って、走ってきて帰り着いた。
心なしか顔色が青い。
そして、この場所近辺に住んでいる私に、怒ったように、聞いてきた。
「おい、ここ、どーなってんだよ?」
「なんかあったか?」
「なんかあったか、って……あったよ!」
かれの話によれば、上の方の階の一室(その建物はたしか11階建てだったと思う)に荷物を届けに行った。
家人がいたようで、無事に一仕事終え、さて帰り道。
行きは何もなかったのだが、下りのエレベーターに乗り込んだかれに不可解な出来事が降りかかる。
ついさっきまではなんともなかったのに、頭上の蛍光灯が、不意に明滅しだしのだ。
それだけならまだ、蛍光灯の寿命とも思えるだろう。
どこからともなく、少女らしい、すすり泣くような声がフェードインしてきて、しかもだんだん大きくなってきたというのである!
さすがのかれも相当ビビったが、下に着くまでイカンともできなかったということだった。
「いや、実は、さ、……」
私は彼に話し始める。
聞いた話だが、この日の一ヶ月くらい前だったか、どこか遠くから来た一人の女子高生が、このエレベーターを使ってであろう、高層階から飛び降り自殺をしたらしいのである。
そういえばここをたまたま通った時に、花束が供えてあったのを私も思い出した。
「おまえ、どーしてそういう大事なことは、前もって言わねーんだよ!」
「いや、言おうと思ったんだけど、おまえがとっとと行っちまったからさ」
Pは、前述したとおり、昔やんちゃしていただけあって、かなりイケイケな性格である。ケンカもヒイキ目なしに見て、結構強い(強かった)と思う。しかも心霊現象など、そういったことはいっさい信じない主義だった。
しかしこの時を境に、かれの人生観も少し変わったように私には見受けられた。
最後に、三人で、誰が発案したわけでもないが、私たちはそこで亡くなった彼女に(自殺の動機はどうあれ)黙祷を捧げることにした。
彼女は、肉体をなくしてしまったが、それでもなんとか地上に降りてくることができたのであろう、とのことを思っての黙祷だったかもしれない。
今思えば、私たちが半ば無意識にしたことは。
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