もの想う大蛇
昔、書いたわたしの稚拙なショートショート(と、いえるかどうか)を、一つ。ただ、原版、消失してしまったので、覚えてる限りを。
前置きはこのへんで。
ここはアマゾン川。その岸辺。
一匹の大きなアナコンダが横たわっていた。
たまには陸(おか)に上がることもある。今はのんびりしていた。かれは今のところそれほど空腹でもなかったからだ。
哺乳類の肉食獣(人間以外)は、満腹のときは、過剰殺戮はしない。
しかし、爬虫類であり、こどももいないかれには、自分でもどう考えていいのかわからない。
草木が血にも肉にもならない体のかれは、しかたなく他の動物を襲うしかなかった。水を飲みに来る動物たちを。口だけで済むやつもあれば、締め殺してからゆっくり食う場合もある。
そういえばここんとこ、魚を食ってなかったな……かれはそう思い、川に潜った。
浅いところからだんだん深くなってくる。ということは、視界も利かなくなってくる。しかし本能で、それがただの流木あるいは木っ端、それか魚、それ以外の獲物の区別はつく。
だが、その枠組みに入らない、想定外のものが、川底にいた。
白っぽくボーっと光るそれに、自分の意思と関係なく、かれは近づいて、いや、引き込まれていった。
よく見るとそれは、人間の男だった。薄ら笑いを浮かべている。手招きをしている。
やっと思い出した! こいつは昔、おれが絞め殺したあげく食ったやつだ。
今度はおれがこいつに殺される番か。
でもな、わかってくれとは言わないが、おれも生きるのに必死だったんだよ。
それにしても「蛇は執念深い」と、勝手に決めつけたのは人間だったのではなかったか。
これじゃアベコベじゃねーか!
まあ、どーでもいーや、そんなこと、今となっては。
かれは、そんなことを考えながら、息苦しくなってくるのを感じつつ、男に導かれようとしていた。
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